我が国の最低賃金制度は、労働者の生活を保障すると同時に、事業者間の公正な競争を確保するための重要な労働政策として位置づけられている。その直接的な法的根拠は最低賃金法にある。
最低賃金法第9 条第1 項は、「地域別最低賃金は、あまねく全国各地域について決定されなければならない」と規定している。したがって、国が全国の地域について最低賃金を設定することは単なる政策判断ではなく法律上の要請である。
また同条第2 項は、最低賃金を決定する際、①労働者の生計費、②地域の賃金水準、③通常の事業の賃金支払能力、の三要素を考慮するよう求めている。さらに第3 項では、労働者が「健康で文化的な最低限度の生活」を営めるよう生活保護施策との整合性にも配慮するとしている。これは憲法第25 条の生存権の理念にも通じるものである。最低賃金法(厚生労働省)
一方、最低賃金は法律上「毎年10月に改定し、10 月1 日に実施する」と定められているわけではない。最低賃金法第12 条は、経済・賃金等の状況から「必要があると認めるとき」に改正する仕組みとしている。
しかし、実務上ほぼ毎年改定されている。
通常は、夏頃に厚生労働大臣が中央最低賃金審議会に諮問し、中央審議会が引上げ額の「目安」を示す。それを受けて各地方最低賃金審議会が地域の経済・賃金・企業経営の実情を審議し、答申、異議申出手続を経て、都道府県労働局長が最終決定する。
発効日について都道府県ごとに差があることにも明確な法的根拠がある。
最低賃金法第14 条第2 項は、原則として公示から30 日を経過した日に効力が生じる一方、それより後の日を発効日として指定することも認めている。実際、令和7 年度は最も早い栃木県が2025 年10 月1 日、最も遅い秋田県が2026 年3 月31 日であり、約半年の差が生じた。令和7 年度地域別最低賃金一覧(厚生労働省)
したがって、最低賃金額や発効日が都道府県によって異なること自体は違法ではない。地域ごとの生活費、賃金水準、企業の支払能力が異なる以上、一定の地域差には合理性が認められる。
しかし、ここには重要な問題が残る。同じ年度の改定でありながら半年も発効時期が違えば、労働者が実際に受け取る年間賃金にも差が生じる。何を理由として発効を遅らせているのか。
最低賃金法本来の目的である低賃金労働者の生活保障を損なってはならないと同時に企業経営者の事業所の地理的区別があってはならないと考える。
結論として、発効日の地域差には法律上の正当性があるものの、その差が著しく拡大する場合には、「なぜその県だけ遅らせる必要があるのか」という客観的・合理的説明が求められる。
今後の最低賃金制度では、引上げ額だけでなく、発効日の公平性についても全国的な基準を検討する必要があると考える。

有限会社レイバー