2018.07.10

働き方改革の全体像

先月29日に働き方改革法案が参院本会議で可決成立した。
今国会の目玉法案で話題となっていたが内容からは政府の3つの意図が伺える。
まず①長時間労働の是正(有給休暇付与義務化・残業時間の罰則付き上限規制・勤務時間インターバルの努力義務)②時間に対する賃金支払いルールの明確化(管理者等の労働時間把握義務・月の残業60時間超えた場合の5割以上の割増賃金の支払い・フレックスタイム制の拡大・脱時間給制度の新設)③正社員と非正規社員の格差是正(同一労働同一賃金)だ。

①②については、まず全ての労働者の労働時間を管理したうえで、時間外労働が発生した場合は、きっちりと支払わなければならないという流れがより厳しくなっていくだろう。そのうえでITによる業務効率化や無駄な業務を切り捨てる等して長時間労働を是正していくという対応が企業には求められる。未払い残業については昨今、世論も訴訟の数は増加傾向にある。今後、2020年の民法改正により債権の時効が5年となることで、残業代の未払い請求はさらに増加、高額化すると考えられます。従って企業は今から未払いの無い体制を整えておく必要がある。そして労働時間に対してしっかりと賃金を支払うことと対極にあるのが脱時間給制度である。これは先の流れとは逆に、時間ではなく成果に対して賃金を支払うというルールである。国会では長時間労働の温床になると話題になったが、実際のところ対象となるのは年収1000万円以上の専門知識をもった従業員で、対象者は限られてくると思われる。労基法41条では管理監督者について労働時間に関する規定を除外している。これを根拠に管理監督者(課長などの役職者)に残業代を支払っていなかったケースで、時間外賃金を請求された場合、労基法の管理監督者にはあたらないとして会社側に極めて厳しい支払判決が言い渡され続けている。労働時間規制から除外される対象を1000万円という数字で明確にしたことと、管理監督者にも労働時間の把握義務ができたことで、今まで曖昧であった対象が明確になり、企業にとっての抜け穴は狭くなったと言える。

③の正社員と非正規との格差については、先月に今後の「同一労働・同一賃金」の方向性を考えるうえで重要な最高裁判決が2つあった。1つは格差不合理手当について、通勤手当や家族手当など就労形態に関係なく生じる性質の手当は、正規と非正規で格差をつけると、無効という趣旨の判決が下された。これにより、家族手当は廃止、もしくは非正規社員にも付与する等、総額人件費を考慮しながら手当を精査する必要が企業には求められる。もう一つは定年再雇用後の賃金について、職務内容が定年前と同じであっても定年前との待遇に差が出ること自体は不合理ではないとした会社側には有利な判決が出された。あくまで定年後の再雇用は別の雇用契約とみてよいという事だ。この判決により、企業は、自社の定年年齢を迎え、コストの高くなった人材から世代交代を行うことによって組織が活性化出来るよう、採用計画、人材育成等の労務管理を行っていきやすくなる。

賞与や給与については労働契約法で①職務の内容②転勤、昇進など配置の変更範囲③その他の事情を考慮して判断するとなっているが、これについては今後でてくる判例で何が不合理な格差で何がそうでないかが明確になっていくだろう。

ただ、施行後、企業は格差の理由説明が義務となるため、非正規との職務に対する責任の範囲等を明確にし、対応できるようにしておかなければならない。以上がこれから企業が対応していかないといけない「働き方改革」の全体像である。