2018.02.09

判例の変わり目

我々が事業所様に労務管理についてのアドバイスを求められた時には法律、行政通達の動向や判例等を根拠にお話しをします。その根拠となるものも時には時代の流れとともに変わる事があります。

判例でいうと日本マクドナルド事件後は裁判で管理監督者性が認められる事は極めて難しくなり「役職者だから残業代は支払わない」というのはリスクが大きいとお伝えすることが多くあります。

直近の判例でも今後の労務管理のありかたに影響してきそうな判例があります。そのひとつに山梨県民信用組合事件という裁判がありました。信用組合が合併した際に合併先の信用金庫の退職金支給基準に一本化した結果、合併されたB信用組合の従業員の退職金が支給されなくなりB信用組合の元従業員がB信用組合の退職金支払い基準で支払を求めた裁判があります。B信用組合の従業員は合併の際の就業規則の説明を受けており、退職金規定の同意書にもサインをしています。結論的には元従業員の主張が認められました。通常個別の合意があれば労働条件を不利益変更できる(労働契約法第9条)ところですが争点となったのはその合意が「自由な意思に基づいてされた合意でありそれを認めるに足りる客観的な事実」があったかというところです。これまで合意した時点で発生している賃金・退職金について放棄するという合意がなされていても、もらえる事が確定しているのに放棄する事に同意するのは客観的に自由な意思に基づいているとは思えないという理由でその合意が無効になることはありましたが、今回のように合意をした時ではまだ退職金等は発生していないケースでその合意が無効になるのは初めてのケースです。

大の大人が一旦サインしたものが無効になるというのは少し違和感のある内容ではありますが、今後実務で不利益変更がある場合は説明会の録音、資料の長期間保存などアドバイスする必要があると思います。特にM&Aが増加し今回のような退職金を一本化するケースも増える為注意しておく必要があります。