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忘年会でセクハラ・トラブルが発生してしまった事案

トラブルの概要
会社の忘年会の際、一次会から二次会へ移動するタクシーの中で、男性従業員が女性従業員に対してセクハラ行為を行った事案です。

当該女性従業員はタクシーを止め、そのままタクシーから下車して帰宅。翌日、会社へセクハラ行為を訴え出たという経緯です。

被害従業員(当該女性従業員)は、加害従業員(当該男性従業員)の退職を要求。加えて、本件を社内で公開すると共に、全社員を集めた場で加害従業員からの謝罪を要求。その上で、その場に加害従業員の配偶者(妻)も呼び出すことを求めました。
解決結果

粘り強い交渉の結果、加害従業員を被害従業員と顔をあわせない部署への配置転換とし、被害従業員への謝罪文、始末書、顛末書を提出させることで決着しました。

全従業員を集めた場での謝罪や、その場に加害従業員の配偶者を呼ぶといったことは、回避しました。

解決のポイント
  1. 迅速に動く
    • すべての労働トラブルに共通していることですが、会社として迅速に動くことが重要です。迅速な対応が出来ない場合、被害従業員の加害従業員に対する恐怖、怒り、屈辱感などが増大し、場合によっては「会社への不信感」へとつながります。
    • 本件は、当事務所の顧問先で発生したことから、本事案発生直後に当該企業からご連絡を頂き、解決に向けたプロセスをスタートしました。セクハラ行為の内容が悪質であったことと、それに伴い被害従業員の怒りが非常に大きかったことから、解決は非常に困難を極めましたが、会社としての始動が早かったことで被害従業員の信頼を比較的早い段階から得ることが出来たと考えます。それが、解決に大きく寄与しました。
    • セクハラ・トラブルはいつでも発生するリスクがありますので、すぐに相談できる顧問先を持っておかれることを強くお勧めします。
  2. 事実の把握と認否の確認
    • これも、いずれの労働トラブルにも共通することですが、事実認定は非常に重要です。正しい事実を、正確に、精緻に調査することが解決への必須条件です。
    • 本件では、被害従業員と加害従業員から別々に話を聞くことで事実認定を行おうとしました。しかしながら、加害従業員が当時、泥酔していたため記憶が曖昧であり、十分な事実確認を行えませんでした。そのため、被害従業員の証言をもとに、その事実を加害従業員に確認するという方法をとりました。
    • 本件では、加害従業員が十分に反省をしていたこともあり、被害従業員の証言内容を概ね受け入れるという姿勢でした。そのため、事実認否で大きな齟齬が生まれることはありませんでした。
  3. 加害従業員の反省の態度と謝罪文の提出
    • 本件は、被害従業員が加害従業員の退職を求める、全従業員の面前で加害従業員からの謝罪を求める、その場に加害従業員の配偶者を呼ぶ、などを要求していました。
    • 被害従業員の気落ちは察するに余りあるのですが、上記の対応をするのは「少し大き過ぎる」と感じていました。「全従業員の前で謝罪」は、他の従業員へのネガティブな影響が懸念されます。また、従業員の家族まで巻き込むのは、やはり「適用範囲を逸脱している」と考えられます。よって、原則「被害従業員と加害従業員の間で解決する」という方針をとりました。
    • その方針におさめるために効果があったのが、「加害従業員の反省の態度」と「(加害従業員から)被害従業員への謝罪文」です。まず、加害従業員に謝罪文を提出させ、被害従業員に渡しました。その数日後に、社長、人事部長、直属の上司が同席した上で、加害従業員が被害従業員に対して謝罪する機会を設けました。これらによって被害従業員は、「加害従業員の退職を求める」、「全従業員の面前で・・・」、「配偶者を呼んで・・・」といった要求は取り下げました。
まとめ

本事案は、当該セクハラ・トラブルを解決すること以外に、多くの示唆を持つ事案でした。

  1. 事をどこまで大きくするべきか?
    • 被害従業員が求めたのは、「加害従業員の退職」、「全従業員の面前での謝罪」、「そこへ加害従業員の配偶者を呼ぶ」といったかなり大掛かりな制裁です。しかしながら、以下の理由により、「当事者間での解決を優先する」方針をとりました。
    • まず、「退職」に関してですが、就業規則の規定や判例に従うと、本件をもとに「懲戒解雇」することには無理がありました。事案に不相当な懲戒処分は、新たなトラブルの原因を生み出すことになります。従って、(感情論に左右されることなく)ルールに基づいて適正な処分を行いました。これは、非常に重要な点だと考えます。
    • また、「全従業員の面前で・・・」は、加害従業員の個人としての尊厳を著しく貶めると判断。また、それが他の従業員に対して「会社が個人攻撃に加担している」と映ってしまうことのリスクも考慮。「配偶者・・・」については、家族まで巻き込んでしまうことは、会社としてやるべき範囲を超えていると判断。いずれも、「それはしない」という方針でした。
    • 目先の解決を優先したり、感情論に左右されたりすると、対応を間違うことがあります。冷静な思慮と判断が必要です。
  2. 解決プロセスの公平・公正さと、その社内への影響
    • 本件は、被害従業員が公開を希望したこともあり、その事実がすぐに社内に広がりました(会社として広げたのではなく、従業員同士の会話の中で社内に広がっていきました)。そのため、「会社がどのような対応をするのか?」について、従業員から高い関心が寄せられていました。
    • 会社の対応が、迅速で正確。公平・公正だったため、従業員からの会社に対する信頼は強くなったと感じています。
    • また、加害従業員へ適切な処分を行ったことから、社内での「セクハラに対する認識」も大きく前進したと考えています。
    • トラブルが発生することはぜひとも避けたいのですが、万一発生した際に、そのトラブルを経て、会社が更に強化されるような解決策を実行したいものです。

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